日本血液浄化技術学会

学術委員会が選ぶ必読論文022


1)透析前の慢性腎不全患者の筋肉量と腎機能における血中重炭酸値の影響

Kittiskulnam P, et al. Impact of Serum Bicarbonate Levels on Muscle Mass and Kidney Function in Pre-Dialysis Chronic Kidney Disease Patients. Am J Nephrol. 2020;51(1):24-34.

推薦コメント:維持透析においてアシドーシスの是正は重要となります。しかし、透析導入前の血清重炭酸に関しては論じられた研究が少数報告されているに過ぎず、コンセンサスが得られていないのが現状です。本論文は導入期前の慢性腎臓病患者で血清重炭酸の増加と筋肉パラメーター、栄養、および腎機能に対する影響を研究したものです。ランダム化された対照研究で透析導入前の血清重炭酸が22mEq/L未満でCKDステージ3~4の患者を無作為に割り付け、経口重炭酸ナトリウムを投与して透析導入前血清重炭酸を25±1mEq/Lに調整した群と22±1mEq/Lに調整した群で筋肉量の変化を検討しています。透析導入前の血清重炭酸を高く維持した方が、筋肉量を良好に維持できることが示されている興味深い論文です。


2)サルコペニアの5つのスクリーニング方法の比較

Locquet M, et al. Comparison of the performance of five screening methods for sarcopenia. Clin Epidemiol. 2018; 10:71-82.

推薦コメント:筋量と筋力・筋機能低下を特徴とするサルコペニアは、転倒や骨折リスクの増大、QOL 低下、フレイル、さらには死亡リスクが増大するとの指摘があります。維持透析患者においては、サルコペニアがより進行しやすいため、早期発見と重症化する前の早期介入が重要です。サルコペニアに対して幾つかのスクリーニング法があり、2018 年に欧州連合学会(EWGSOP)からSARC-F(Morley により提示;2012 年) と呼ばれるスクリーニング法の使用が提唱されました。この論文では、SARC-Fを含む5つのスクリーニング法について比較し、サルコペニアのリスクがある高齢者を予測する精度と臨床的妥当性が確認されています。また、日本人が開発した簡便なスクリーニング法の有用性が論じられている興味深い論文です。


3)全身性炎症は慢性腎臓病における冠状動脈石灰化および全死因死亡率と関連している

Hwang IC, et al. Systemic Inflammation Is Associated With Coronary Artery Calcification and All-Cause Mortality in Chronic Kidney Disease. Circ J. 201;80(7):1644-52.

推薦コメント:腎機能の低下は心血管疾患による死亡率の増加と関連しており、末期腎疾患(ESRD)患者の死亡の50%以上が心血管疾患に起因しています。また慢性腎臓病(CKD)の患者は心血管疾患の要因となる冠状動脈石灰化(CAC)のリスクが高く、最大93%で確認できるほど一般的な合併症です。このCACの進行は血漿カルシウムやリン酸塩の増加、低栄養、貧血、高血圧、脂質異常症、酸化ストレス、尿毒症など腎不全に関連するものがあります。進行したCAC はCKDにおける全身性炎症に関連していますが、この関連性の予後的意義は不明です。本論文はCACと推定糸球体濾過率(eGFR)および全死因、死亡率との関連を評価し、全身性炎症の有無による関連性を調査した興味深い論文となります。


4)大規模自然災害が予想される場合は定期透析の前に臨時透析を実施する方が有用である

Lurie N, et al. Early Dialysis and Adverse Outcomes After Hurricane Sandy. Am J Kidney Dis. 2015;66(3):507-512.

推薦コメント:自然災害が発生すると、透析患者は透析を受ける機会が減り、転帰が悪化することが知られています。そのため、災害の前に臨時透析を実施することが推進されていますが、そのエビデンスは不足しています。本論文では、ハリケーン「Sandy」で最も被害を受けた地域の腎不全患者を対象に、災害の前に臨時透析を受けることと、定期透析との転帰を検討しており、大規模災害による透析延期が与える影響を評価した数少ない論文です。近年日本でも、大規模自然災害が多発しているため、エビデンスに基づいた透析患者対応が必要かもしれません。


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