日本血液浄化技術学会

学術委員会が選ぶ必読論文019


1)田中 恵祐, 他. 不織布を用いた乾燥タンパク質付着ステンレス鋼表面の拭き取り洗浄における水の界面での役割. 日本防菌防黴学会誌. 2020, 48(12) 629-634.

不織布を用いた乾燥タンパク質付着ステンレス鋼表面の拭き取り洗浄における水の界面での役割

推薦コメント:昨今のコロナ禍では、医療現場のみならず飲食店をはじめ社会全体での感染防止ならびに感染制御が求められ、除菌や拭き取り洗浄による清拭が、常法的に行われるようになりました。一方、拭き取りに使用する不織布ワイプや織編クロスや拭き取り方法が洗浄効果に大きく影響することも報告されています。 本論文では、タンパク質のモデル汚れとして血清アルブミンを人為的にステンレス鋼に付着させ、異なるワイプ素材で、拭き取る際の押しつけ力やワイプに吸収させる水分量、さらには片道および往復での拭き取り方法の違いが洗浄効果に与える影響を比較検証しています。 清潔操作環境を整えるための標準作業手順書作成の際などにとても有用な情報が含まれていると考えます。


2)次亜塩素酸ナトリウムは透析装置のバイオフィルムに有効である

Sodium Hypochlorite is Effective against Biofilms in Dialysis Equipment

推薦コメント:透析監視装置の取扱説明書にある洗浄消毒の項には、JIS規格に沿った試験で薬剤耐性の高い芽胞形成菌を死滅させる洗浄消毒条件が記載されていますが、実機では配管壁にバイオフィルムが形成されることがあり、その場合には記載された消毒法の順守だけでは菌が消滅しないと考えられます。 本論文は、バイオフィルムリアクターを使用して人工的にバイオフィルムを作製し、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄効果について、薬液濃度と洗浄時間が与える影響を実験的に検証したものです。非常に有用なエビデンスが示されている論文と考えます。


3)血液透析用逆浸透膜水システムに存在する細菌バイオフィルム群集の特性評価

Characterization of the Bacterial Biofilm Communities Present in Reverse-Osmosis Water Systems for Haemodialysis

推薦コメント:透析液の清浄化において一般的な培地を使用した培養法では、生菌の検出は限定的です。 本論文は、RO膜に形成したバイオフィルムを電子顕微鏡で観察し、微生物群集を培養することなくそのままゲノムを精製して直接シークエンスすることで網羅的に解析する、いわゆるメタゲノム解析を行っています。さらに、これまであまりクローズアップされてこなかった従属栄養細菌における薬剤耐性に関する検証も行なっています。 透析液の清浄化において、重要な情報を含む論文と考えます。


4)CKDにおける心血管危険因子である血液循環中の細菌断片

Circulating Bacterial Fragments as Cardiovascular Risk Factors in CKD

推薦コメント:慢性腎臓病患者や透析患者において、血漿中のエンドトキシン(ET)濃度が上昇すると、腸内環境にも影響を及ぼし、その結果、腸内細菌のDNA断片が血液中に循環することで、心血管疾患(CVD)リスクが上昇するとの報告があります。 炎症状態が引き起こされる透析治療そのものが腸内細菌叢とのかかわりの中で、CVDリスクを上げていること、透析液中のETや生菌数が患者自身の腸内細菌との関わりの中でCVDリスクを上げていることなど多くの情報が分かりやすくまとめられた総説です。 透析治療とCVDリスクと透析液清浄化の関わりなどの知見について、まとめて理解したい方にお薦めします。


5)慢性維持透析患者における血液内に循環する細菌由来のD N A断片と炎症マーカー

Circulating Bacterial-Derived DNA Fragments and Markers of Inflammation in Chronic Hemodialysis Patients

推薦コメント:細菌に由来するDNA断片が透析液中に存在するとIL-6を誘導し炎症を促進する可能性があります。よって、細菌由来DNA断片と炎症指標の関連を調査することは、透析液の清浄化を考える上で重要です。 本論文は、細菌由来DNA断片が血液透析患者の血液中に存在するか、また存在する場合、それが各種慢性炎症マーカーと関連するかどうかを調査しています。 清浄化のメリットの一つに炎症反応の減少がありますが、透析液製造システムの上流から下流までの工程管理においてDNA断片の発生源となる細菌がいない、もしくは0.1CFU/mL未満の基準に合致することが重要となることを、改めて認識させてくれる論文です。


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